トップ > コラム一覧 > 白衣への情熱を語れ vol.1 フォーク株式会社 下北裕樹氏

白衣への情熱を語れ

メーカー開発担当者が語る、こだわり抜いた自社製品の誕生秘話

THSで販売している多くの白衣たち。その一つひとつは、開発に携わった方々の苦労と努力の結晶であり、熱い想いが詰まっています。その気持ちごと、お客様にお届けしたい。そんな思いから、こちらではメーカーの製品企画担当者の方からお聴きした製品開発にまつわるエピソードをご紹介します。

私たちが作っているのは「作業服」ではない


医療現場に日本発のスクラブが普及したきっかけとなる、ワコールとの共同開発で気づいたこと


近年、多くの医療現場で目にするようになった「スクラブ」。手術着としての利用が一般的だったスクラブを、医師や看護師が白衣の代わりに着用する大きなきっかけとなったのが、フォーク株式会社が女性下着メーカーであるワコールの社内機関「ワコール 人間科学研究所」と共同開発した、「ワコールHIコレクション」でした。

女性らしいシルエットであるのはもちろん、細部にまでこだわった機能性を持つこのスクラブは、まさに現場の声を集約したものでした。若い看護師たちのあいだでは、これを着て仕事をするのが目標となっていたりもするそうです。そんな「ワコールHIコレクション」だけでなく、フォークが手掛けるスクラブは毎年進化を遂げています。着る人の気持ちをとことんくんだ、「かゆいところに手が届く」フォークのスクラブは、どのように開発されているのでしょうか。デザイナーとしてフォークのスクラブ全般を手掛ける下北裕樹さんにお話を伺いました。

ワコールとの共同開発によって、
日本人女性のエレガントさを見せる
スクラブ開発に成功した

スクラブ ワコールHIコレクションについて語る下北氏
  • フォークさんはそもそも事務服を手掛けるメーカーだったそうですが、そこから白衣やスクラブを作るようになったきっかけは何だったのでしょうか?

弊社は1903年創業となりますが、メディカルウェアに参入したのは2000年頃となります。北海道のとある企業を救済合併することになり、そこで病院関係にまで販路が広がったことがきっかけでした。それまでは事務服しか作っていなかったので、他社さんのブランドを参考に、いろいろ研究しながら作っていったんです。当時はまだ白衣が主流でした。

  • 近年増えてきたスクラブは、いつ頃から手掛けるようになったんですか?
ワコールHIコレクション、2018年の新商品

▲ワコールHIコレクション、2018年の新商品

2007年ぐらいからでしょうか。ワコールさんが京都にある産婦人科の内装を監修される際、その病院が併せて白衣もリニューアルしようということで、弊社にお声がかかったんです。私も京都まで出向いて産婦人科のスタッフの方々とコミュニケーションをとりながら、新しい白衣をご提案させていただいたんですが、すごく気に入ってくださって。そのあとすぐ、ワコールさんとの共同開発が決まりました。そこで初めて本格的にスクラブを作ることになったのですが、長いあいだ白衣が主流だった日本のメディカルウェアの分野において、スクラブの登場は非常にエポックメイキングな出来事だったと思います。

  • ワコールといえば下着のイメージが強いですが、スクラブを共同開発する利点はなんだったのでしょうか?
スクラブについて語る フォーク 下北氏

スクラブは元々アメリカで開発されたもので、当時日本で使われている物のほとんどが輸入品でした。しかし、東洋人は欧米人に比べて全体的に体が小さいので、どうしてもサイズが合わないんです。私自身、ずっと日本のアパレル企業でデザイナーとして仕事をしていたので、日本人女性の体型というものに敏感だったこともあり、輸入スクラブでは日本人女性のエレガントさが全然出ないなと思っていたんです。その点、ワコールさんの人間科学研究所は女性の下着を研究開発していますので、あらゆる世代の体型のデータをたくさん持っている。そんなワコールさんと共同で開発することによって、着たときにラインが美しく見えるスクラブの開発ができるというのが最大の利点です。

「現場の声」を聞き逃さないように

フォーク 下北氏
  • 実物を見ても、立体的に縫製されているのが一目瞭然です。具体的にはどのように開発されたんですか?
スクラブ ワコールHIコレクションについて語る下北氏

▲現場の声を基に、袖口のゴムで腕にフィットさせた
「ワコールHIコレクション」

ワコールさんがお持ちのデータを基にするのはもちろんですが、それ以外に、実際に働いている人たちの声を大切にしました。そうすると、「もっとこうだったらいいのに」とか、「ここはこうしてほしい」といった生の要望が聞けるので、とにかく現場に足を運びましたね。例えば、ワコールさんと共同開発した「ワコールHIコレクション」は袖口にゴムが入っているのですが、「従来の筒状だと腕を上げたときに脇の下が見えてしまうから、見えなくならないかしら?」と言われたのがきっかけで誕生したものです。

  • 他にも現場の声を反映した点はありますか?
ジップスクラブ 7038SC

ジップスクラブ 7038SC

ほかにも、「スクラブを着るときに困っていることは?」という問いに、頭からかぶるプルオーバータイプだと、髪の毛が乱れたり、お化粧がついたりしてしまいがちだという声があり、後ろにファスナーをつけるタイプの開発が行われました。これは、のちに登場する「ジップスクラブ」というシリーズに派生するきっかけにもなったんです。

  • 確かにファスナーがあったほうが脱ぎ着しやすいですよね。でも、今回お持ちいただいた2018年の新商品は、前にファスナーがついていますが。
フォーク株式会社が発売する2018年の新商品、(左)チェロキー、(右)ワコールHIコレクション

▲フォーク株式会社が発売する2018年の新商品、
(左)チェロキー、(右)ワコールHIコレクション

これは、さらに改良を加えたものです。後ろファスナーにすることで、頭からかぶらず、下からはけるようになったのですが、今度は「ファスナーに手が届かない」という声があって。それなら、ということで前ファスナーにしました。

  • なるほど。本当に現場の声を大切にされているんですね。

そうですね。やっぱり、私たちが良かれと思って作っても、実際に使っている現場では「ちょっと…」ということは当然あるはずですから。そこは聞き逃さないようにしたいと思っています。

スクラブを医療現場以外でも
着てもらえるようにしたい

スクラブの開発について語る杉下氏
  • ワコールさんとの共同開発で一番苦労された点はどういったところでしたか?

一番たいへんだったのは「被験者テスト」ですね。「一対評価」といって、私たちが開発した商品と他社の商品を、どっちがどっちだとか言わずに被験者の方に着ていただくテストがあるんです。その上で率直な感想を伺いつつ、最終的にはどちらを購入したいかを聞きます。その結果が、最低でも7対3の割合で私たちの商品を選んでいただけない限り販売許可が下りないというきびしいもので。ワコールの皆さんは普段からそういうテストを行っているわけですから、こちらも生半可な物は提出できないという意識が高まりました。

  • そこでの気付きが、フォークさんのオリジナル製品に活かされていることも多いのでしょうか?
フォークオリジナル製品について語る杉下氏

フォークオリジナル製品 GENKIシリーズ 7023SC

そうですね。例えば、弊社の「GENKIシリーズ」は、アクティブに動けるように背面がニット素材になっていて、すごく生地が伸びるんです。それで作業性が良くなるほか、脇の下にもニット素材を使うことで、吸汗速乾性や通気性を高めています。私たちは普段、病院の先生や看護師の方に向けて製品の開発を行っているのですが、このシリーズは病院のリハビリテーション科で働いている方のほか、介護士の方にもご好評いただくという、私たちも予想していない分野での需要があることがわかりました。また、欧米だと前をボタンでとめるだけのデザインも多いのですが、それだと何かの拍子に外れてしまうことも考えられるので内側にファスナーをつけたり、着丈もお尻が隠れるように設定してあるんです。

  • 細かい部分にまで女性が求めるものに対する配慮をされているんですね。下北さんがそこまでデザインにこだわる理由は何ですか??

スクラブの開発に着手し始めたころ、ある病院の婦長さんから言われたことがあるんです。「女性はどんなときもきれいでいたい、美しくありたいっていうのが根本なのよ」って。それを聞いたとき、やっぱり私たちが作っている物は「作業服」じゃないんだなと思ったんです。職場の制服とはいえ、ファッション性をはじめ、女性の心に寄り添った物を作っていかなきゃいけないことを強く感じさせられて、今があります。

  • スクラブの登場は医療現場に大きな変化をもたらしたと思いますが、今後の目標や夢はありますか?
フォークが発行する、自社のスクラブが採用された病院の事例が掲載された冊子「現場の声」。働く人それぞれが自分好みのスクラブを着用している。

▲フォークが発行する、自社のスクラブが採用された
病院の事例が掲載された冊子「現場の声」。
働く人それぞれが自分好みのスクラブを着用している。

ありがたいことに、現在までに多くの医療現場でスクラブを取り入れていただけるようになりました。自分たちがデザインした物が、ひとつの病院の何百人という働く方たちに着ていただけるのは、もちろんすごくうれしいんですけど、まだまだと思う部分もあって…。例えば、スクラブの本場であるアメリカでは、個人が着たい色を選んでいたり、ビビッドなカラーもナチュラルに着こなしていたりするんですよ。一方で日本は、まだ役職によって色合いを統一している病院も多かったりするので、もっと自由に一人ひとりが好きなカラーのスクラブを着て楽しんで仕事をしてもらえるようになればいいなと思っています。そして、いつかスクラブが病院以外の場所…例えばラーメン屋さんのユニフォームとか(笑)、そういうところにまで波及するまでにできたら、というのが今の目標ですね。

  • 下北裕樹 氏
  • 下北裕樹 氏
  • フォーク株式会社企画室室長。1983年にバンタンデザイン研究所を卒業後、デザイナー・山本寛斎氏が代表を務める株式会社やまもと寛斎に入社。「fun KANSAI MAN」のチーフデザイナーを担当したほか、株式会社KANSAI SUPER STUDIOへ転籍後はライセンスディレクター兼デザイナーとして勤務。1997年に独立し、さまざまなアパレルと契約して活躍後、2001年にフォーク株式会社へ入社。企画室室長兼デザイナーとしてワコール人間科学研究所との「ワコールHIコレクション」の開発リーダーを務めたほか、同社が手掛ける数々のオリジナルスクラブの誕生に関与。現在は後進の育成にも力を入れている。

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